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スティーヴンスと生きた9月・10月-ミュージカル『ドッグファイト』

DOGFIGHTお疲れ様でした!東京・名古屋・大阪の全29公演を走り抜け、大千穐楽を迎えられたことが本当に嬉しい。本当に本当に本当に…と、「本当に」を打ち込み始めると止まらないぐらい、嬉しい。

さて、このミュージカルで我が担当今江大地くんが演じたのはスティーヴンス。2017年の再演を観ていたので、この役が楽しみだったのだ。金髪で女の子を口説き悔しがり、とにかく歌って踊り、パーティーには男性を連れてきてしまい、売春宿で見せ場がある子。彼を今江くんが演じるのだ!

これはいちオタクから見た、2021年、5週間のスティーヴンスの記録。

 

一番変化があったシーン:前半公演の記録

初日~1週間で3回ほどまずは観劇した。スティーヴンスは爆発力のあるダンスを武器に、のびのびと、生き生きと、ステージ上で暴れていた。

ただ、今江くんがこんなに長い期間同じキャラクターとして生きるのは初めて。見渡す限りの花畑であると同時に担当への期待値がヒマラヤ山脈なので、「きっともっとできるはず、終わる前に」の押し売りをする日々であった。

進化を最も感じたのが2幕冒頭の売春宿のシーン。2017年再演時にスティーヴンスの見せ場としての記憶があったのもあり結構楽しみにしていたシーンだ。

最初の数回でもった感想は、『演技の幅がどこか松竹座の少年たちっぽさがある…』というもの。この感想自体多方面に失礼な気はするが。

このシーンをものすごく簡単に説明すると以下のようになる。

①売春宿前で娼婦の順番待ちをする男たち

②充実した素振りでスティーヴンスが出てきて、皆にその良さを語る

③次の海兵が自分の番だと立ち上がるも、娼婦が店じまいを宣言

④その気になっている海兵たちはその女を黙らせようとし、あわやレイプ未遂

⑤1幕の出来事がきっかけで心変わりをしているエディが海兵たちの暴挙を止める

⑥娼婦はもう一人とだけ仕事をすることを許可、エディはその場から立ち去る

 

どうだろうか。②の見せ場以外台詞がほぼないにもかかわらず喜怒哀楽の全てを表現しなくてはならないめちゃくちゃ難しいシーンなのである。

何をもってして「少年たち」と思ったのか、自分自身で噛み砕いて考えてみた。おそらく、自由にのびのび×台詞のない演技×若い男たちのバカ騒ぎ、というところでこの印象になったのだと思う。

それにこのシーン、「スティーヴンス」より「今江くん」なんじゃなかろうか。

今江くんは基本的に感情と体が直結している分かりやすい子だ。焦ると目が泳ぐ、照れると顔を隠す。そして彼はよく「優しい」と評される、裏を返すと人と楽しく時を過ごすという点において割とイエスマンである。そんな彼の演じる初期ーヴンスは全員に平等にリアクションをしていた。娼婦のチッピーが話せば彼女の方を向く、エディが止めればエディの方を向く、といった具合である。

自分のセリフ以外のところにも気を配り、適切なリアクションをできるのは素晴らしい。でも次々と人が話す疾走感と緊迫感のあるシーンにおいて全員に同じ熱量でリアクションをするという行為がどこか現実味がなくて個人的に引っかかっているのかもしれないな、と思った。

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公演が終わり、上記コメント動画を見直す。スティーヴンスを自惚れ役でお調子者っぽく演じるのが今江くんの演技プランらしい。スティーヴンスをもっと知りたいなと思った。今江くんの解釈するスティーヴンスが生きる様を観たくて劇場に通う。役者のファンって面白いなと思う。

 

一番変化があったシーン:後半公演の記録

さて、そんなぼやっとした印象から始まったシーンであったが、大千穐楽を迎える頃にはこのミュージカルの出演シーンの中で一番好きなシーンになっていた。公演を重ねるごとに成長著しく、上記のモヤモヤが晴れ渡るようにスティーヴンスが舞台上で生きてくれたからだ。

こう書くと、「あのアドリブのことか?」と思われかねないのでここは大声で弁明させてほしい。2幕スティーヴンスといえば、②のシーンに強気すぎるアドリブをぶち込むことばかりが取り沙汰されていたかのように感じるかもしれない。確かに、普段は下ネタを言わない彼のゲスティーヴンスのコーナーにいちオタクはざわつく日々であった。ただ、10/5更新のかんじゅ日誌を読んで「あ、これは偉い人に怒られないかぎり一切アドリブを遠慮しないつもりなんだな」という覚悟ができていたので(実は結構こだわりが強く自分を曲げないタイプなのである…へんなところで…)、取捨選択をするオタクとして幕間で「感受性」というスイッチをオフにすることで乗り切った…はずである。

…脱線した。そういう話ではない。あのシーンを「今江くんが下ネタを言うコーナー」だと思うのはあまりにも勿体ないのである。

ティーヴンスは回を重ねるごとに「今江くん」ではなくなった。終盤はもう今江くんは完全にナリを潜め、スティーヴンスの表情・動きの連続だった。

まずはアドリブ。内容はさておき、自分に注目を集めてからしっかりと台詞をいう一連の流れに一切の躊躇や怯えがなくなり、ゆっくり時間をとって海兵隊たちのリアクションを楽しむ余裕まで出来ていた。

もともと今江くんは顔が水平線より上を向いているのがデフォルトだが、顔が上を向いているのにくあわえ肩の動かし方を工夫することで「顎から歩いてる感じ」が出ていて、自分に自信のあるスティーヴンスだ、と信じるにふさわしい演技をしていた。椅子にかけても胸とアゴが出ている。うぬぼれ屋のそれである。

あのときのスティーヴンスは自身が経験できたことに満足しており、バーンスタインがチッピーと経験をしようがしまいが構わない、と考えている。「今夜は長い夜だった」というチッピーのセリフに呼応するように自分を指さしてニヤニヤとするサマは今江大地のそれとはまったく異なり、思わず感動の声が漏れそうになる。

課題に感じていた「誰に対しても平等にリアクションする」という点も劇的に改善した。海兵の兄貴分、ボーランドのことを慕っているのは他のシーンからでもわかるのだが、このシーンでもボーランドの行動・言葉に賛成する者としての行動がしっかりできていたように思う。

怪訝そうに片方の眉だけをあげるような表情をしたり、かと思えば見下げるように満足気に口角を片方だけあげて笑ってみたり、いつもと違う歯を出す笑い方をしていたり。そんな表情知らない。ずっとずっと双眼鏡で追ってきた人のはずなのに、そこには私のよく知らない「スティーヴンス」がいるのだ。なんという快感。楽しいなあ。

そして④のシーン。忘れもしない東京公演前楽、チッピーを押し倒すバーンスタインをただ煽るにとどまらず、スティーヴンスは自身のベルトに手をかけたのだ。このとき、あまりにもゲスくて最悪で自分勝手なスティーヴンスに、文字通り鳥肌が立った。スティーヴンス、そうだな。そうするだろうな、スティーヴンス。今江くんが生きるスティーヴンスこそが正解だけれど、その彼にまた新たな正解を見せつけられるのだ。いち観客にすぎない私のキャラ解釈と、演じる本人のキャラ解釈がバチコーン!とハマった瞬間の快楽たるや。充足感、興奮…適切な言葉が分からないけれど。

ティーヴンスは千穐楽までベルトに手をかけていたし、何なら終盤に近付くにつれその付近でさらに遊びをくわえていた。演じるキャラクターの厚みを増すことを諦めない貪欲さにときめくことをやめられなかった。

シーンが終わり、「ホームタウンヒーローズ凱旋パレード」が再開すれば、例のギッラギラの表情でマスキュリンの極みのような曲と振り付けで舞う。1幕で『性欲が操る獣』と称された海兵隊たちの、赤い照明に照らされた表情と、捌け際のチッピーの対比が、特に照明が綺麗な梅田芸術劇場シアタードラマシティでは際立っていた。

 

「生きた」スティーヴンス

あまりにも記事が長くなりそうなので対比はこのシーンにとどめたが、スティーヴンスはほかにも至るシーンで生きていた。

冒頭2曲目、「最後の夜」ではとにかくその身体能力を生かしたダンスで。日々お互いの距離感が近くなり、汚い笑い声が飛び交うそのサマに涙してしまうのは結末を知っているからだ。

「ヘイ、彼女」の目覚ましい進化についても。東京公演中盤から何かが変わったな、と思ったらそれを日誌で種明かししてくれたのにワクワクした。客席ロックオンのおこぼれにありがたいことに複数回預かり『ファンサする今江くん』とは似て非なる『女を口説くスティーヴンス』にニコニコ…否、ニヤニヤさせられた。大千穐楽が近づくにつれ加速するようにその口説きスタイルは姿を変え、指クイ、舌ペロ、拗ねたかと思えば花が咲くような笑顔、もどかしく口から言葉がでないサマ…と見たことのない動きや表情を宿す姿に、カラフルな役者、ってこんなものなのかも、と思わされた。たぶん全アイドルファンは自担の「ヘイ、彼女」が観たいと思う。カウコンで外周トロッコでやってほしい。

ナイトクラブのシーンでは紳士的なダンスを観られたのも楽しかったし、徐々に洋子の扱いに慣れていくのが観ていて愉快だった。(最初は洋子に対して優しすぎたように感じていたので。)そしていざドッグファイトの採点が始まってからバードレイスにお金を渡すまでの見せ場。歌割り以外の箇所にも笑い声を加えたり、採点中も生き生きとバーンスタインとやり取りをするようになってから、「台詞を言うために、この歌詞を歌うために」な位置移動はすっかりナリを潜め、スティーヴンスがそこにいることが自然で違和感がないことが嬉しい日々だった。

夜明けのシーン。後に彼らを守る椅子を数えたり、足を置いてみたり、重そうに運んだりと様々な実験をしてくれた。「星条旗に、敬礼しよう」の緊迫感を私は二度と忘れられないんじゃないかと思う。

戦場では曹長からの名指しの指示に「イエッサー!」と答え機敏に動く素晴らしく優秀な海兵隊だった。常に堂々たる姿勢で小道具の移動が多いなかでも緊張感と演技を維持できたのはジャニーズJr.として積み重ねてきたキャリアが輝く部分だったように思う。ひと言でいうと、出来ジュ。

終盤の治安悪江くん(と勝手に呼んでいた)もスティーヴンスのキャラ解釈とは異なっていて大変よかった。ステフォが欲しい。

 

友人の声

舞台期間中は基本的に思いを巡らせるのに忙しいので興奮状態による不眠が続いた。手が空けば取りつかれたようにパブサをする日々であったが、自ら評判を調べに行っても怪我しないぐらい概ね好評な意見が多かったように思う。それに、大千穐楽が近づくにつれその声はさらに大きくなっていた。

友人に今江くんの感想を聞いて「華がある」と言われたときには思わずガッツポーズした。「頼もしくなった」、「パワフル」、「生き生きしている」なんて声も嬉しくて。今江くんは生きる力を与える役者さんになれる、と私は勝手に思っている。あくまで"勝手に思っている"にすぎないからこそ、それを担当ではないお友達に裏付けられるとすごく嬉しいのだ。

 

プロフェッショナル達に囲まれて

ドッグファイトのキャスト陣は揃いも揃って各公演をその役としてフレッシュに生きるプロフェッショナルたちであった。何度観劇しても色あせることのない、都度新鮮な一回きりの体験、チケット額面以上の価値がある。毎回入るたびにそう実感させられる公演って本当に貴重だ。それをミュージカル初挑戦の今江くんが間近で体感・体験しているという事実にずっとずっとずっと感動していた。様々な舞台でキャリアを積んだ役者さんたちと、まだまだ駆け出しの今江くんがご一緒させてもらえるのはひとえに事務所の看板あってこそ、ジャニーズJr.であってこそなので、とても素敵な経験になったと思う。絶対に今後のキャリアにおいてどこかで活きてくるであろう。それがとてもとても嬉しい。

 

そんな29公演、5週間、私の世界も大きく広がったように思う。千穐楽を迎えたあとの自分が想像できず、燃え尽き症候群といわんばかりにずっとこの思い出を引きずりながら生きることになるのではないかと思っていたが、実態は違った。

この作品から得たものはあまりにも大きい。私の人生このままじゃいけないという焦燥感と、自身に呪いをかけることなく、強く、正しく、気高く生きたいという想い。よし次は私だぞ、私も頑張るぞ、とアツい気持ちで思えている私がいる。

本当に大千穐楽おめでとうございます。忘れられない2021年秋をありがとうございました。やっぱり大好きなミュージカルだよ。またやってね。

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おつかれさまでした!



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