いたれりつくせり。

アニオタからジャニオタ。オタクのオタク。

つかの間(DOGFIGHT開幕によせて)

9月17日、17:55頃。

シアタークリエの座席に腰かける。オーケストラの方がピットで準備をしているのだろう、いくつかの音色を奏でる。

ここまで来たんだ。ここまで来られたんだ。

チケットをもぎられても、パンフの担当の写真やテキストを見てもいまひとつ湧いてこなかった実感がぐわっとこみあげてきた。心臓がバクバクと脈打つ。何に祈るでもないのに、手を組んで目を閉じる。どうか、どうか、どうか。まずはこの公演、そして千穐楽まで、駆け抜けられますように。


7、8月のコロナ感染数の急増は覚悟こそしていたもののものすごくて、都内在住の私はただうろたえるしかなかった。今までの感染対策を徹底しながら緊急事態宣言中も週に1度出社していたが、社内で相次いで感染者が発生。「濃厚接触者なし」なんて嘘だろう、と文句のひとつもつけたくなる。その人たちに私は「お疲れ様です」を言っている。すれ違っている。生きた心地がしなかった。その人たちを恐れているんじゃない。コロナを恐れているんだ。

弊社はそれをうけ、20年4月の緊急事態宣言ぶりのフルリモートを通知。それでも最終出社日から2週間は家の中でそわそわしながら過ごした。

安寧の地ツイッターにおいても毎日コロナに対するニュースがトレンドやTLを賑わせ、ついにはフォロワーにも2、3人コロナの濃厚接触者や陽性者が出始める。

…こんな東京に、担当は一人でホテル暮らしをしているのだ。9月の舞台に向けて。

「DOGFIGHT」と名付けた、共演者さんを入れたリストを更新する日々。このリストには東宝演劇部(お知らせ用)も入れていたので、レ・ミゼラブルが、エニシング・ゴーズが、ナイツテイルが、中止になるのを見てきた。

8月20日。演出の山田さんの『ドッグファイト通信』が、休止のお知らせ。悪い予感がする。

8月23日。

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最初の感情は、「無」だった。

すぐさま東宝演劇部(お知らせ用)アカウントを見に行く。特に告知なし。共演者・スタッフ含め、何も言わないツイッターの「DOGFIGHT」リストが怖い。公演初日まで逆算する。あと…24日?

屋良くんなら、他の方ではなく、今回が3回目のエディとなる屋良くんなら、稽古を2週間抜けても大丈夫…かもしれない。症状がでなければリモートで稽古とかもできるであろう。でも、熱がある人に対して、そもそも「公演ができるかも」、と期待する私がなんだかすごくひどい人間な気がした。まずは何事もなく回復しますように、と願わなくちゃいけないのに、興行のことを考える私は酷な人間だ。

そのあと、今江くんのことを考えた。

どういう気持ちだろうか。毎日の稽古の内容を見ていても、それなりに時間は一緒に過ごしていたのではないだろうか。保健所が定義する「濃厚接触者」ではなくても、話しはしているだろう。

弊社に感染者が出たとき、私は濃厚接触者にはならなかったものの、怖かったし、孤独だった。今江くんが孤独じゃないといいな、と思った。とりあえず事務所にファンレターを出した。

スタッフさんが、共演者さんが、これ以上感染しないように祈った。出演者やスタッフに感染が広がり、興行の準備が間に合わないため公演中止。レ・ミゼラブルでつい数日前に見たお知らせ文が脳内に浮かぶのを必死で打ち消す。いやだ。

12時、6時、気づくと他の時間にも、ジャニーズ公式の「INFORMATION」を更新するのが癖になった。0時には沈黙を守ったままの『ドッグファイト通信』を。順次、「DOGFIGHT」のリストを。

それ以外に私にできることと言えば、何の意味もなく己の感染症対策を一層徹底することだけであった。家の中でもビニール手袋を使ったり、会話を減らしたりして、家族の誰がコロナに感染したとしても保健所に濃厚接触者とされないよう全力で日々を過ごした。

 

9月3日。

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屋良くん復帰のお知らせ。初日への道筋が見えてきたものの、まだ半信半疑。稽古最終日も、劇場入りも、なんだか夢見心地で、ここまで来てしまったのだ。


4年ぶりに浸る、ドッグファイトの世界。

無知な海兵隊たち。素直じゃないエディ。ずっとまっすぐで、ずっと聡明なローズ。その歌声に鳥肌が立つ。

心を躍らせ、かと思えば苦しさで胸を締め付ける、生オーケストラの至高の楽曲の数々。

この4年間、何度この楽曲たちを聞いただろうか。ドッグファイトの再演を祈っていたが、この令和の世界ではもしかしたら難しいかもと諦めていた。でも、再演してくれた。そして、この情勢ではもしかしたら難しいかもと諦めていた初日を迎えた。

それだけじゃない。大好きな今江くんが、スティーヴンスとしてそこにいた。髪を切って。筋肉を増やして。愛すべき…いや、愛せないほど馬鹿で、向こう見ずで、何も知らなくて、愚かな海兵隊として、そこにいた。

大好きな楽曲が、シーンが、また目の前で展開されている。その世界に大好きな今江くんがいる。当たり前じゃない興行、当たり前じゃない初日。2時間40分幸せが続く。

カーテンコール、一番最初に出てきて頭を下げる今江くんにまた涙が出てくる。劇場内で一番大きな拍手を送るつもりで拍手。

 

つかの間 羽目外し 夜を牛耳れ

羽目は外さないけど、つかの間の初日公演がもう終わろうとしている。

 

「生きていてよかったな」ふと、そんな思いが浮かぶ。うん、生きていてよかった。生きてると、こんな素敵なことがあるんだな。大好きな公演をもう一度見られて、その世界に自分の大好きな人がいる、なんてことが。

生きててよかった、生きててよかったや。噛みしめるように何度かそう思いながら、ステージ上で音楽を楽しむように踊る担当を見る。カーテンコールの今江くんは、スティーヴンスではなく今江くんだ。

 


勘違いしてほしくないのだが、この記事は断じて「私が、みんなが、屋良君が頑張ったから舞台ができた!すごい!」という話ではない。「奇跡!エモ!」なんていう話ではない。誰しもがコロナによって思い通りにいかない暮らしをしていて、この公演に来られない人もいる。「観劇に来られない人だっているんですよ!そんな気軽に『絶対みんな見て』とか言わないでください!」という意見もとてもにわかる。

私はすごく恵まれている。それは知ったうえでさ、私は私のためにこのブログを書いているのだ。だってめちゃくちゃに嬉しかったから。

 

あらためてドッグファイト開幕おめでとうございます。

なるだけたくさんの人にこの舞台が愛されますように。千穐楽まで無事走り切れますように。よろしくお願いします。

 

 

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今江くん、

今江くんが「今度舞台に立つときは力を与えられるような存在になる(意訳)」とかんじゅ日誌で書いていたのを劇中に思い出しました。力、もらえました。カーテンコールで涙して、生きててよかったなんて考えて、楽曲をハミングしながら眠りについて。すごくすごく幸せな経験だと思っています。再演自体、今江くんが出演しなくても見てはいたと思うけれど、そこにいてくれて、本当に、本当に、本当に、ありがとうございます。